底辺人間記録

底辺人間の行き場なき思考の肥溜め

自分のことは自分が一番よく知っているは嘘

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自分のことは自分が一番よく知っている。これはきっと嘘である。現に自分の身体のことなら、自分よりも確実に医者の方が詳しい。身体に関して自分が一番詳しいのは自分がどう感じているか、つまりはそれは痛みなのか痒みなのか、痛みであるのならどこが痛むのか、具体的にどう痛いのかまでの感覚であり、原因の特定や処置の仕方については当然医者の方がより正確により多くを知っているのである。自分の性格や考え方についても同じことが言えて、それらについても自分が一番詳しいのはただそういう風に感じている自分がいるということだけである。



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知識もなく自覚症状から自己診断したものは当たり前だが精度に欠けている。風邪などの軽いものでさえ、今のご時世なら特に当てにはならないだろう。性格や考え方も同様で、ただそう感じている自分がいるというそのことから、自分の性格や考え方を導き出すのは大抵の場合に失敗しているのである。なぜなら、こちらにも知識が必要だからだ。自分がどういう性格をしていて、どういう考え方をしているのか、それを知るには自分の実感だけでは不十分で、医者が病名を診断をする時と同じように、そもそも性格や考え方とは何かという方向の知識もいるのである。




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だから当然その知識が豊富である人の方が自分よりも自分の性格や考え方に詳しいのである。ただ現実には身体に対しての医者のようなポジションの人が性格や考え方の場合にははっきりとはいないので、自分のことは自分が一番よく知っているという最も着地しやすい言説に落ち着いているだけである。自分のことは余裕で他人の方が知っているということも実際には全然あるのだ。ただやはり医者のような公的資格を持っている人はいないで、その人が自分に関する正しいことを言っていても、自分の方が聞く耳を持っていない場合がほとんである。




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自分のことは自分が一番よく知っていると思いたいという欲が人間にはある。それは自分自身の尊厳の源である。何せ全てを経験し全てを感じてきたのは他でもない自分なのだから、他人に口出しされてたまるかというプライドが働くのである。経験してきたことや感じてきたことは確かに自分が一番詳しい。だが、そこからどんな形で抽象をし、どんな因果関係で結びつけ、どんな結論を出すのが正しいのかについて一番詳しいのは必ずしも自分であるとは限らないのである。もちろん最後にはその人生を生きるのは必ず自分なので、例え他人がどんなことを言っていても、それを踏まえてどう生きるかはやはり自分自身の自由ではある。