一体いつから自分は死ぬのだと錯覚していた
私はいつから自分は死ぬのだと思い始めたのだろう。思い出そうとしても全然思い出せない。とにかくいつの間にか気づいた時には、もう自分は絶対に死ぬのだと思っていて、そのために生き急ぐようになってしまっていた。しかしよくよく考えてみるに、どうして私はこうも自分の死を確信しているのか、実のところよく分からない。もちろん何も自分には死なない可能性があるなんて言いたいわけではない。ただあまりに死ぬのだと決めつけ過ぎているのではないだろうか。だってそう判断するための材料をきちんと持っているかと言われると、非常に怪しい、どれもこれも推論の域を出ていないものばかりである。
自分の死はどこから
例えば、今まで存在した全ての人間は一定の期間が過ぎると身体が動かなくなり冷たくなっていったということから、自分(の身体)もやがてはそうなるだろうとは言えるのかもしれない。だけどそこから「だから私は死ぬのだ」と帰結するのは少し早計である。身体が冷たくなっていた彼らが実のところ死んでいるのかどうかは誰にも分からないからだ。死んだとする結論は、あくまで生きている我々側の憶測に過ぎない。いや、仮にそれが本当に死なのだとしよう。身体が冷たくなったというその事が即ち人間の死なのだとして、それでそのことは私の死を結論付ける十分な材料となるだろうか。ならないですね。だって人間は私を完全に包含しているわけではないから。私には確かに人間の中の一人であるという「側面」もあるが、それ以前に世界そのものを認識し、存在する全てをその内に包み込む存在でもある。だから人間の死と私の死は明らかに違う意味を持っている。言うなればそれは、物語の中のキャラクターが死ぬのとその物語の作者が死ぬくらいの違いなのだ。一緒くたにして論じるのはあまりに粗雑である。
それでも何故かもう知っている
しかしそうは言っても、この文章を書いている今この瞬間でさえ、私はやはり自分は死ぬのだとはっきり確信したままである。死ぬかどうかなどと疑える余地は最初から微塵も残されてはいない。それどころか、死ぬかどうか分からないと態度を保留することさえ、もはやどこか欺瞞的な雰囲気である。保留にしようとすると、本当は死ぬって知ってるくせに、なんて声が頭の中に響くのだ。それくらいに死ぬことは強く強く私に刻み込まれている。どうしてかは分からない。分からないけれど、とにかく私は知っているのだ。死がどんなものであるかなどさっぱり分からないのに、自分がいつか必ず死ぬということだけは嫌と言うほどに、はっきりと。
